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てぶくろ


ぬくぬくてぶくろ

幼少時、「手がちぎれそう」と手の冷たさを表現していた。
最近では、あまり聞かれない言葉だ。
最近では、環境が暖かくなってきたおかげか、手袋は冬の必
須アイテムではなくなってきた。新しい手袋を買ってもらっ
た時の嬉しさとぬくもりは今も忘れていない。現在、子ども
たちは、手袋を持つ喜びをどれだけ感じているだろうか。

絵本の世界でも、あまり手袋を扱ったものは見かけられない。
絵本のテーマは、いつも子どものニーズを反映しているのか。
手袋が絵本のテーマになりにくいのも、冷たさを感じる機会が
少なくなってきたためかもしれない。


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手元にある手袋の絵本は、2010年までがほとんどだ。ふく
だすぐる作・絵『ぼくのてぶくろ』岩崎書店は2009年
に出
版されている。外から帰ってきたマー君が、片一方の手袋がな
いのに気づいて、もう一度探しに出かけて、見つかってよかっ
たねという、極めてありふれた話だ。ふくださんの本にしては、
少々単純な本だ。


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2004年に、おおしまたえこ作『ターちゃんのてぶく
ろ』ポプラ社
は、ターちゃんが手袋を買ってもらって大
喜び。早速手袋をはめて外に出かけ、友達に羨ましがら
れ、ますます大喜び。なのに、その夜手袋は外へ冒険に
出かけ、池に落ちてしまう。どうゆうわけか、寒がりで
家から出ようとしない、飼い犬のゴロに助けられ、めで
たしめでたしの絵本だ。

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この絵本よりも相当前の1973年に、福音館書店<こ
どものとも203号>で、川崎洋作、長新太絵『てぶく
ろくろすけ』
が出ているが、前作と似ていて、手袋の片
一方だけが夜に、散歩に出かけ、手袋は両手でないと、
手袋仲間にも入れてもらえず、傷ついて帰宅して家族に
叱られ踏んだり蹴ったりの話。長さんにしては、少し物
足りない話だ。
手袋さえあれば、手も心も暖かくなるかと言えば、そう
はいかないようだ。



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わが国で、最も愛されている日本の手袋の話は、新美
南吉作、黒井健絵『手ぶくろを買いに』偕成社
だろう。
もちろん、児童文学とか童話と言われるジャンルに属
する本を絵本化したのだから、同タイトルの絵本はさ
まざまな画家の絵がつけられて出版されている。
今回は、黒井さんの絵で作られたものを紹介する。話の
内容は、知らない人はいないだろう。狐の親子の愛情溢
れる話だ。雪の中、子どもの手袋を買うために、子ども
に、人間の営む帽子屋で狐と気づかれないように買って
くるように言いつける。親の言いつけとは反対の手を出
して、怪しまれたはずなのに無事に子どもの狐は手袋を
買って戻って来て、母狐は安堵する。おそらく、人間の
帽子屋は、狐とわかっていて売ったのだろう。
この本の短い説明の言葉で「新美南吉がその生涯をかけ
て追及したテーマ『生存所蔵を異にするものの流通共鳴』
を、いま、黒井健が叙情豊かな絵を配して、絵本化しまし
た」と書いている。黒井さんの絵を観ていてそのことが十
分伝わってくる。話と絵が見事に融合した絵本だ。

世界でも最も有名な手袋の絵本と言えば、誰もが知る、
ウクライナ民話をエウゲーニー・M・ラチョフ絵(うちだ
りさこ)『てぶくろ』福音館書店(1965)
だろう。原
著は1950年に出版となっている。

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おじいさんが落とした手袋に、ネズミ、カエル、ウサギ,
キツネ、オオカミ、イノシシ、クマと次々に動物たちが
やって来て一緒に住むことになる。手袋を落としたことに
気づいたおじいさんが探しに戻ると、手袋はそのまま落ち
ていた。あの小さな手袋に、大きなクマまでが一緒に住む
ことなど想像もできないが、絵本だからできるのだ。絵本
の素晴らしさは、現実と虚構が出入りして成り立つのだ。
その典型が、この『てぶくろ』だということで、多くの研
究が残っている。

面白いのは、ラチョーフは、1978年にもう一度、書き
直して出版している。基本は、ウクライナ民話ということ
で、大きな違いはない。ただ、絵はかなり色鮮やかで、現
実的で動きがある。ラチョーフは1970年代初頭に画風
が大きく変わったと言われているが、言葉も大幅に増えて、
会話文を多用して、劇的な演出が見られる。例えれば、よ
り紙芝居に近くなったと言えるかもしれない。文章は、初
版の方が、シンプルでテンポがいいと言える。

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正確に書けば、エヴゲーニイ・ラチョーフ絵(田中潔)『
てぶくろ』(ネット武蔵野)(2003)
ということにな
る。新しく書き直されたこの絵本をどれだけの人が知って
いるだろうか。ほとんどの人が、福音館書店版しか知らな
いだろう。

折角の機会だから、もう1冊紹介しておきたい。同じウク
ライナ民話で、たちもとみちこ(colobockle)作『てぶくろ
』ブロンズ新社(2005)
と書名は一緒だ。
違うのは、男の子が手袋を落とし、最後も男の子が、拾って
家に帰るというのと、登場する動物もかなり違う。手袋も
ミトンではなく5本指の手袋だ。したがって手袋の家の作り
はまったく違う。絵はコラージュでできているがとても色彩
鮮やかだ。日本的でしかも現代的で、ラチョフの初版に馴染
んでいる者には、別物に見えてしまう。好みはそれぞれあっ
ていいだろう。でも、どれも並べてみて比較しながら絵本と
してどれが完成度が高いか考えてみるのもいいかもしれない。

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全く同じだが、日本の昔話でも、同じ話を様々な人が描いて
いて、どれが好みに合うのか選択に困ることがある。
手袋関係では、松谷みよ子文、田島征三絵『山おとこのてぶ
くろ』ほるぷ出版(1984)
の1冊しか知らないので、残
念ながら比較できない。話の内容は、大男が主人公で、普通
には悪い男として扱われるが、最後まで読んでいくうちに、
良い男と悪い男との違いは、何を持って判断したらいいのか、
迷ってしまう。
うるうるしそうなそうな本でもある。1度読んでいた
だきたい。

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時代と共に、手袋って何?と言われそうだが、結構暖かく、
心の底までぬくもりがしみこむ、ありがたいものだと思い
直してもらえれば幸いだ。と言っても、手袋メーカーの回
し者では決してない。




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by ehondamari | 2018-01-23 19:34 | 絵本と子育て・保育 | Comments(0)

絵本で潤いのある生活を楽しむ


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