てぶくろ
2018年 01月 23日
ぬくぬくてぶくろ
幼少時、「手がちぎれそう」と手の冷たさを表現していた。
最近では、あまり聞かれない言葉だ。
最近では、環境が暖かくなってきたおかげか、手袋は冬の必
須アイテムではなくなってきた。新しい手袋を買ってもらっ
た時の嬉しさとぬくもりは今も忘れていない。現在、子ども
たちは、手袋を持つ喜びをどれだけ感じているだろうか。
絵本の世界でも、あまり手袋を扱ったものは見かけられない。
絵本のテーマは、いつも子どものニーズを反映しているのか。
手袋が絵本のテーマになりにくいのも、冷たさを感じる機会が
少なくなってきたためかもしれない。
だすぐる作・絵『ぼくのてぶくろ』岩崎書店は2009年に出
版されている。外から帰ってきたマー君が、片一方の手袋がな
いのに気づいて、もう一度探しに出かけて、見つかってよかっ
たねという、極めてありふれた話だ。ふくださんの本にしては、
少々単純な本だ。
ろ』ポプラ社は、ターちゃんが手袋を買ってもらって大
喜び。早速手袋をはめて外に出かけ、友達に羨ましがら
れ、ますます大喜び。なのに、その夜手袋は外へ冒険に
出かけ、池に落ちてしまう。どうゆうわけか、寒がりで
家から出ようとしない、飼い犬のゴロに助けられ、めで
たしめでたしの絵本だ。
どものとも203号>で、川崎洋作、長新太絵『てぶく
ろくろすけ』が出ているが、前作と似ていて、手袋の片
一方だけが夜に、散歩に出かけ、手袋は両手でないと、
手袋仲間にも入れてもらえず、傷ついて帰宅して家族に
叱られ踏んだり蹴ったりの話。長さんにしては、少し物
足りない話だ。
手袋さえあれば、手も心も暖かくなるかと言えば、そう
はいかないようだ。
南吉作、黒井健絵『手ぶくろを買いに』偕成社だろう。
もちろん、児童文学とか童話と言われるジャンルに属
する本を絵本化したのだから、同タイトルの絵本はさ
まざまな画家の絵がつけられて出版されている。
今回は、黒井さんの絵で作られたものを紹介する。話の
内容は、知らない人はいないだろう。狐の親子の愛情溢
れる話だ。雪の中、子どもの手袋を買うために、子ども
に、人間の営む帽子屋で狐と気づかれないように買って
くるように言いつける。親の言いつけとは反対の手を出
して、怪しまれたはずなのに無事に子どもの狐は手袋を
買って戻って来て、母狐は安堵する。おそらく、人間の
帽子屋は、狐とわかっていて売ったのだろう。
この本の短い説明の言葉で「新美南吉がその生涯をかけ
て追及したテーマ『生存所蔵を異にするものの流通共鳴』
を、いま、黒井健が叙情豊かな絵を配して、絵本化しまし
た」と書いている。黒井さんの絵を観ていてそのことが十
分伝わってくる。話と絵が見事に融合した絵本だ。
世界でも最も有名な手袋の絵本と言えば、誰もが知る、
ウクライナ民話をエウゲーニー・M・ラチョフ絵(うちだ
りさこ)『てぶくろ』福音館書店(1965)だろう。原
著は1950年に出版となっている。
キツネ、オオカミ、イノシシ、クマと次々に動物たちが
やって来て一緒に住むことになる。手袋を落としたことに
気づいたおじいさんが探しに戻ると、手袋はそのまま落ち
ていた。あの小さな手袋に、大きなクマまでが一緒に住む
ことなど想像もできないが、絵本だからできるのだ。絵本
の素晴らしさは、現実と虚構が出入りして成り立つのだ。
その典型が、この『てぶくろ』だということで、多くの研
究が残っている。
面白いのは、ラチョーフは、1978年にもう一度、書き
直して出版している。基本は、ウクライナ民話ということ
で、大きな違いはない。ただ、絵はかなり色鮮やかで、現
実的で動きがある。ラチョーフは1970年代初頭に画風
が大きく変わったと言われているが、言葉も大幅に増えて、
会話文を多用して、劇的な演出が見られる。例えれば、よ
り紙芝居に近くなったと言えるかもしれない。文章は、初
版の方が、シンプルでテンポがいいと言える。
てぶくろ』(ネット武蔵野)(2003)ということにな
る。新しく書き直されたこの絵本をどれだけの人が知って
いるだろうか。ほとんどの人が、福音館書店版しか知らな
いだろう。
折角の機会だから、もう1冊紹介しておきたい。同じウク
ライナ民話で、たちもとみちこ(colobockle)作『てぶくろ
』ブロンズ新社(2005)と書名は一緒だ。
違うのは、男の子が手袋を落とし、最後も男の子が、拾って
家に帰るというのと、登場する動物もかなり違う。手袋も
ミトンではなく5本指の手袋だ。したがって手袋の家の作り
はまったく違う。絵はコラージュでできているがとても色彩
鮮やかだ。日本的でしかも現代的で、ラチョフの初版に馴染
んでいる者には、別物に見えてしまう。好みはそれぞれあっ
ていいだろう。でも、どれも並べてみて比較しながら絵本と
してどれが完成度が高いか考えてみるのもいいかもしれない。
いて、どれが好みに合うのか選択に困ることがある。
手袋関係では、松谷みよ子文、田島征三絵『山おとこのてぶ
くろ』ほるぷ出版(1984)の1冊しか知らないので、残
念ながら比較できない。話の内容は、大男が主人公で、普通
には悪い男として扱われるが、最後まで読んでいくうちに、
良い男と悪い男との違いは、何を持って判断したらいいのか、
迷ってしまう。
うるうるしそうなそうな本でもある。1度読んでいた
だきたい。
心の底までぬくもりがしみこむ、ありがたいものだと思い
直してもらえれば幸いだ。と言っても、手袋メーカーの回
し者では決してない。
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by ehondamari
| 2018-01-23 19:34
| 絵本と子育て・保育
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