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田島征三氏が発信するもの


いま求められる絵本の力強さ

我が家に、田島征三さんの1枚の絵がある。1979年、愛知
県豊橋市の作品展で求めたものだ。

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        「大きな雌鳥」1979、田島征三画 舟橋所蔵

久し振りに何気なく書架の田島征三コーナーを見ていて、
田島征三作『畑の神々―日の出村画帖―」集英社に目が
留まった。この本の中に先の絵が収められているからだ。
「大きな雌鳥」1979年という絵だ。この本に、私の所蔵
する絵が入っているのを見つけて、田島さんに、これは、
私が購入して所有しているのだから、所有者の私に了解
を得ないとまずいのではないですかと笑いながら言った
ら、照れ笑いしながら、そうでしたねと謝られた。もち
ろん、笑いながらのやりとりだったことを思い出す。

『畑の神々』を見て。田島さんの偉大さと迫力ある絵に
驚嘆する。見た途端に、強い気持ちへスイッチが入る。
これだけ力強く、迫ってくるすごみを持った絵本が、
最近出ているだろうか。
近頃の絵本の弱さが、読み手の減少につながっているの
ではないかとさえ思わされる。

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『畑の神々』の中で、今江祥智さんと灰谷健次郎さんが、
名文を寄せておられる。いつも情熱的で、豪快な絵で、魂
を揺さぶられる田島さんの絵を正しく評価して、田島像を
灰谷さんは見事に描いている。
「田島さんの絵が、ひとをうっとりさせるような情感を拒
否して、ひとの内部に変化をおこさせるような力を持って
いるのは、そういうきびしさをくぐっているからである。
ほんとうの美しさというものはそういうものをいうのだ
ろう」さらに、「ぼくが田島さんと、田島さんの絵に、
愛着と敬意をはらうのは、つまりは、執着なんだろうな」
と書いておられる。田島さんの絵は、泥臭くて、汚い絵だ
という人が多く、そのために、子どもが引きつけを起こす
とか吐き気をもようすなどの批判は多かった。その度に、
「美しさ」と「きれい」とはちがうのだけどね。僕は美し
さを描いているのだと私に主張しておられた。私もその通
りだと今でも思う。

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田島さんの処女作『しばてん』偕成社は、出版当初、大人
の絵本だとか汚い絵本だとか、批判の対象になった。この
絵本と最初に出合ったのは、今江さんと一緒に講演した時
に今江さんの話からだった。当時、さほど絵本に興味を持
っていなかった私には、衝撃の出合いだった。絵本でこん
なことができるのだと、たちまちにして絵本のとりこにな
り、今日に至る。絵本とかかわるはじめの一歩になった。
絵本は、おもちゃではなくて、絵本はいろいろなメッセー
ジをもって、子どもの心を耕す子どものビタミン剤のよう
なものだ。
はじめて、田島さんの日の出村のご自宅にお邪魔した時、
松谷みよ子作田島征三絵『くもだんなとかえる』ポプ
ラ社
を探しているのだが、なかなか手に入らず困ってい
ると、お話したところ、家に1冊あるから差し上げますと、
サインをして渡された。大変な感激で、天にも昇る心地だ
った。

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折角のサインも、私の名前の2字までも違っていた。いただ
いた者としては文句は言えない。この本も、今回じっくり読
み直してみたが、改めて、田島さんの迫力には圧倒される。
当時泥絵の具を使って製作されていたので、絵の具の特徴も
生かされているのか、他に例のないような豪胆で、命の爆発
を見るような衝撃を受けた。
この絵本は、アフリカの民話を松谷さんが再話し、それに田
島さんが絵をつけたものだ。クモ旦那はカエルを手下にして、
やりたい放題で、カエルをこき使った、水を求めても許され
ず、さらには、クモ旦那の女房にも酷使される。我慢が限界
に達した、カエルはクモ旦那の肺の中に入り込み、リベンジ
を図る。
逃げるカエル、追いかけるクモ、賢いカエルは二度と非情で
横暴なクモにつかまることはなかった。
 
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この『くもだんあとかえる』は『しばてん』と並んで、私の元
気の源と言ってもいいだろう。比類ない力強さと迫力は、命の
力を大きく押し上げていくエネルギー源だ。
しかし、1969年9月10日に出版された『くもだんなとかえる』
は、出版1週間で、販売禁止になったそうだ。子どもが読む絵
本としては残酷だという理由だったそうだ。恥ずかしながらそ
のことを最近まで知らなかった。
70年代の絵本ブームの先駆けとして、田島さんたちの新しいエ
ネルギーで絵本の世界は大きく動いていたのだ。砂糖菓子のよ
うな甘ったるい絵本が、子どもの絵本であると、絵本を矮小化
して、絵本の世界を長く固定化していたようだ。子どもの絵本
だからいいものをという高邁な理想は、勘違いされていて、軟
弱で、かわいらしいと言われるものを、珍重しすぎていたよう
だ。子どもの姿も読み違えていたようだ。絵本が子どもと大人
の共有財産として、ともに楽しめるメディアとなるためには、
70年代以降、幾多の変遷を繰り返して今日に至っている
。この
先、さらに大きく変化していくだろう。


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田島さんのお宅に伺った時、『やぎのしずか』の主人公の
しずかに会うことができたが、すでに寝たきりになってい
た。そのヤギの乳を搾って奥さんがヨーグルトを作ってく
れて、朝食でいただいたことを今も忘れていない。

2012年に、しずかがモデルなのか、
田島征三作『こやぎが
ぴょん ぴょん』福音館書店が出版
された。これは、赤ちゃ
ん絵本として出版されたが、ヤギや、ウサギ、カエルなどが
次々と「ぴょーんぴょーん」と跳ねる姿は、リズミカルで、
いかにも楽しそうだ。オノマトペの「ぴょーん」の跳ねる
声で、子どもたちも一緒に跳ね上がるに違いない。

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子どもに人気まつおかたつひで作『ぴよーん』ポプラ社
一緒に飛び跳ねてからだごと楽しんでもらいたい。


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        ササユリ(2018・6・5 自宅庭)

我が家の庭で、待望のササユリが2本が同時に咲いた。
清楚で、楚々とした立ち姿は実に美しい。
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ササユリ(2018・6・8 曼荼羅山)

裏山の曼荼羅山でもササユリが一輪だけ咲いた。
ピンク色が濃く、我が家のモノより、清々しさがある。
少々寂しいけど、来年も咲いてほしいものだ。 





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Commented by midorigame at 2018-06-06 21:53 x
「しばてん」「ふきまんぶく」は、先生が初めの頃に紹介してくださった絵本ですね。”絵本は可愛いもの”という思い込みを思いっきり覆してくれた絵本でした。こんな絵本があるんだということをその後も次から次へと教えて頂きました。征三さんや征彦さんはの本は今でも本屋さんに行くと探しています。
Commented by ehondamari at 2018-06-06 23:15
midorigameさん
30数年前の話ですね。
いま、改めて田島さんの絵本を見ると、最近の絵本に心を揺り動かす絵本がないことに気が付きます。もっと子どもを躍動させられる絵本が出てこないものですかね。ハートのない絵本ばかりで、買うのがもったいなくなります。
絵本にもう少し力を与えるためには、読者の貪欲な希望が必要ですね。
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by ehondamari | 2018-06-05 17:52 | Comments(2)

絵本で潤いのある生活を楽しむ


by ehondamari